ひと騒動
俺がここに来てから何日たったかな。
一週間くらいか。
なのになぜ俺はまだミリアムと同じ部屋なのか。
これから長期間お世話になるわけだし、そろそろ個室を用意してもらいたい。
おかしいだろう、年頃の男女が同じ部屋って。
テリーさんはなんとも思わないんだろうか。不思議だ。
2階は3部屋ある。
ミリアムの部屋とリマの部屋と、一番奥にもうひと部屋。
そこを空けてもらえないかな。
俺は話をつけにグレースさんがいるキッチンへ行った。
甘い香りがただよっている。
庭で採れたリンゴでジャムやチップスを作っているようだった。
「グレースさん、お話があるんですけど」
声をかけたが戸棚の奥で何かを探しているようだ。気づいてくれない。
何かブツブツ言いながら、たくさんの箱を取り出して中身を確認している。
ちょっと待った方がいいか。
俺は椅子に腰かけてグレースさんのやっていることをぼんやり眺めていた。
********************
突然グレースさんの動きが止まり、持っていた箱を放り投げた。
立ち上がり2,3歩後ろに下がった。
箱に何かあったのか?
足元に素早く動く何かが見えた。
なんだ?
「もう!!どうしてこの時期にいるのかしらっ!」
大きな声だ、めずらしい。
「どうしたんですか」
俺が聞くとやっと存在に気付いてもらえた。
青い顔をしている。
「ああ、ラス!黒いあの虫がいたのよ!この時期に、信じられる?
今そこの隙間に逃げたのだけどきっとまだいるわ。やっつけられるかしら?」
黒い虫。
なぜかヒトの大半は忌み嫌うあの虫か。
俺も見ただけで嫌な気持ちになるし、あまり得意じゃない。
でもそうも言えない空気だな。
「どの辺です?」
「そっちよ!!!」
そっちって。
グレースさんが指さす方向をよく見てみると、いた。
隠れているようだけど触角が見える。
どうしたらいいんだ。
魔法で燃やしてやろうかと思ったが、あいにく秘薬を持っていなかった。
俺とグレースさんが黒い虫に翻弄していると
別の部屋からミリアムがバタバタと音をたててやってきた。
「お母さんどうしたの?外まで声が聞こえたよ?」
「あぁミリアム!そこに黒い虫が・・・」
言いかけてたところで黒い虫はサッと走り出し壁を伝っていった。
「うわ、きっも!!!!!!」
忍術を使ったのか、さっと姿を消した。
便利だな。
「ちょっと、なんであいつが今いるの?冬だよ?死なないの??」
いつの間にか俺の後ろにミリアムがいた。盾にするな。
********************
立ちすくむ3人。
壁に張り付いてこちらの動きの様子を見ている黒い虫。
どうする。
部屋の空気が緊張感でいっぱいだったが、それを打ち破ってくれたのがテリーさんだった。
「おう。そろってどうした?何かあったのか?お?なんだこいつ、この時期に」
バン!と強い音がしたと思ったら、テリーさんは一瞬のうちに手のひらで黒い虫を潰していた。
黒い虫はぼとりと床に落ちて動かなくなっていた。
長年農家をやるとこのくらいの虫は戸惑いもなく素手でやれるようになるのか。
俺は言葉が出なかった。正直引いたし感心もした。
「うわああああああ、お父さん!何してんの!手!手ぇ洗ってよ?
それまでどこも触らないでよ????
ていうか壁に虫の跡ついちゃってるじゃん!!!!足も残ってるじゃん!!!
どーすんのそれ!!!!
うわあああああきもちわるーーーー!!!!!!」
涙目のミリアム。俺の腕をぎちぎち握りしめながら絶叫した。
この場にいる人間の思ってることを代弁してくれたような気がした。
テリーさんは指で壁に張り付いた黒い虫の足を剥がした。
「ミリアムはこんな小さな虫が怖いのか?
今はまだいいが、暖かくなってきたら色んな生き物が出てくるのは知ってるよな?
もう少し虫には慣れないと。これから農家としてやっていけないぞ?」
ミリアムはぶるぶる震えていた。
怖いというより気持ち悪いんだよな、あれ。
「きょ、今日だけだから!油断してただけだから!
私だってちゃんと家のことやれるよ!!」
ムキになるな。素直に認めておけって。
そのうちなんとも思わないようになれるって。
人の事いえないけどな。
・・・て、あれ。
お前も農家やるの?
********************
ほとぼりが冷めたころ、もう一度グレースさんに部屋について相談した。
奥の部屋は荷物置き場になっていてすぐにどうこう出来ないレベルらしい。
片付けるのに時間がかかるのでもうしばらく待ってくれと言われた。
それなら仕方ない。
とりあえず考えてくれてるだけマシかな。もう少し待つしかないな。
寝る前、ミリアムに今後について聞いてみた。
忍者はどうするのか、冒険者として生きていかないのか。
お前も農家をやるのか、とね。
「んー、分かんない」
相変わらず流れにまかせて生きてる感じだな。
将来の事とか考えてないんだろう。
気楽だなぁ。
「ラス兄がうちに居るって言うから、だったら私も一緒にいようかなって思ってたけど。
忍者はどこかに所属してるわけでもないし、冒険者も好きな時にやれるしね。
農家をやるかどうかはまだ分かんないなぁ。」
って俺か?俺がいるから残るって?
いいのかそれで。
まぁ、飽きたらまた戻ったりなんなりするだろうし。
好きにしたらいいんじゃないかな。
悪くはない、と思う。
「一緒に動物の世話とか出来たら楽しいじゃん?」
翌朝俺は寝坊した。
昨夜はなかなか寝付けなかった。
一週間くらいか。
なのになぜ俺はまだミリアムと同じ部屋なのか。
これから長期間お世話になるわけだし、そろそろ個室を用意してもらいたい。
おかしいだろう、年頃の男女が同じ部屋って。
テリーさんはなんとも思わないんだろうか。不思議だ。
2階は3部屋ある。
ミリアムの部屋とリマの部屋と、一番奥にもうひと部屋。
そこを空けてもらえないかな。
俺は話をつけにグレースさんがいるキッチンへ行った。
甘い香りがただよっている。
庭で採れたリンゴでジャムやチップスを作っているようだった。
「グレースさん、お話があるんですけど」
声をかけたが戸棚の奥で何かを探しているようだ。気づいてくれない。
何かブツブツ言いながら、たくさんの箱を取り出して中身を確認している。
ちょっと待った方がいいか。
俺は椅子に腰かけてグレースさんのやっていることをぼんやり眺めていた。
********************
突然グレースさんの動きが止まり、持っていた箱を放り投げた。
立ち上がり2,3歩後ろに下がった。
箱に何かあったのか?
足元に素早く動く何かが見えた。
なんだ?
「もう!!どうしてこの時期にいるのかしらっ!」
大きな声だ、めずらしい。
「どうしたんですか」
俺が聞くとやっと存在に気付いてもらえた。
青い顔をしている。
「ああ、ラス!黒いあの虫がいたのよ!この時期に、信じられる?
今そこの隙間に逃げたのだけどきっとまだいるわ。やっつけられるかしら?」
黒い虫。
なぜかヒトの大半は忌み嫌うあの虫か。
俺も見ただけで嫌な気持ちになるし、あまり得意じゃない。
でもそうも言えない空気だな。
「どの辺です?」
「そっちよ!!!」
そっちって。
グレースさんが指さす方向をよく見てみると、いた。
隠れているようだけど触角が見える。
どうしたらいいんだ。
魔法で燃やしてやろうかと思ったが、あいにく秘薬を持っていなかった。
俺とグレースさんが黒い虫に翻弄していると
別の部屋からミリアムがバタバタと音をたててやってきた。
「お母さんどうしたの?外まで声が聞こえたよ?」
「あぁミリアム!そこに黒い虫が・・・」
言いかけてたところで黒い虫はサッと走り出し壁を伝っていった。
「うわ、きっも!!!!!!」
忍術を使ったのか、さっと姿を消した。
便利だな。
「ちょっと、なんであいつが今いるの?冬だよ?死なないの??」
いつの間にか俺の後ろにミリアムがいた。盾にするな。
********************
立ちすくむ3人。
壁に張り付いてこちらの動きの様子を見ている黒い虫。
どうする。
部屋の空気が緊張感でいっぱいだったが、それを打ち破ってくれたのがテリーさんだった。
「おう。そろってどうした?何かあったのか?お?なんだこいつ、この時期に」
バン!と強い音がしたと思ったら、テリーさんは一瞬のうちに手のひらで黒い虫を潰していた。
黒い虫はぼとりと床に落ちて動かなくなっていた。
長年農家をやるとこのくらいの虫は戸惑いもなく素手でやれるようになるのか。
俺は言葉が出なかった。正直引いたし感心もした。
「うわああああああ、お父さん!何してんの!手!手ぇ洗ってよ?
それまでどこも触らないでよ????
ていうか壁に虫の跡ついちゃってるじゃん!!!!足も残ってるじゃん!!!
どーすんのそれ!!!!
うわあああああきもちわるーーーー!!!!!!」
涙目のミリアム。俺の腕をぎちぎち握りしめながら絶叫した。
この場にいる人間の思ってることを代弁してくれたような気がした。
テリーさんは指で壁に張り付いた黒い虫の足を剥がした。
「ミリアムはこんな小さな虫が怖いのか?
今はまだいいが、暖かくなってきたら色んな生き物が出てくるのは知ってるよな?
もう少し虫には慣れないと。これから農家としてやっていけないぞ?」
ミリアムはぶるぶる震えていた。
怖いというより気持ち悪いんだよな、あれ。
「きょ、今日だけだから!油断してただけだから!
私だってちゃんと家のことやれるよ!!」
ムキになるな。素直に認めておけって。
そのうちなんとも思わないようになれるって。
人の事いえないけどな。
・・・て、あれ。
お前も農家やるの?
********************
ほとぼりが冷めたころ、もう一度グレースさんに部屋について相談した。
奥の部屋は荷物置き場になっていてすぐにどうこう出来ないレベルらしい。
片付けるのに時間がかかるのでもうしばらく待ってくれと言われた。
それなら仕方ない。
とりあえず考えてくれてるだけマシかな。もう少し待つしかないな。
寝る前、ミリアムに今後について聞いてみた。
忍者はどうするのか、冒険者として生きていかないのか。
お前も農家をやるのか、とね。
「んー、分かんない」
相変わらず流れにまかせて生きてる感じだな。
将来の事とか考えてないんだろう。
気楽だなぁ。
「ラス兄がうちに居るって言うから、だったら私も一緒にいようかなって思ってたけど。
忍者はどこかに所属してるわけでもないし、冒険者も好きな時にやれるしね。
農家をやるかどうかはまだ分かんないなぁ。」
って俺か?俺がいるから残るって?
いいのかそれで。
まぁ、飽きたらまた戻ったりなんなりするだろうし。
好きにしたらいいんじゃないかな。
悪くはない、と思う。
「一緒に動物の世話とか出来たら楽しいじゃん?」
翌朝俺は寝坊した。
昨夜はなかなか寝付けなかった。